近年、タイとカンボジアの国境周辺では断続的な緊張や小規模な衝突が報じられています。
自動車業界では「生産や輸出に影響が出るのではないか?」と懸念する声もありますが、結論から言えば現段階では自動車生産への直接的な影響はほぼありません。ただし、一部条件下では限定的な影響が出る可能性もあるため、各国・各メーカーの生産体制を整理しながら解説します。
目次
結論|全面戦争ではないため、現段階では自動車生産への影響は限定的
今回のタイ・カンボジア間の問題は、
- 国境周辺に限定された緊張
- 全面戦争や国家総力戦には至っていないという状況です。
そのため、タイ国内の主要自動車工場(サムットプラカーン、チョンブリー、チャチュンサオなど)は国境から大きく離れており、
生産・港湾輸出・サプライチェーンは通常通り稼働しています。一方で、カンボジア側の自動車組立産業は規模が小さく、タイからの部品供給に依存しているため、物流遅延などの軽微な影響が出る可能性は否定できません。
タイにおける各自動車メーカーの生産拠点と体制

タイはASEAN最大級の自動車生産国であり、完成車・輸出拠点としての安定性は非常に高いのが特徴です。
HONDA(ホンダ)
HONDA(生産拠点)①:アユタヤ
- 設立開始:1996年4月
- 生産車種:アコード、CR-V、シビック
HONDA(生産拠点)②:プラチンブリ
- 設立開始:2016年3月
- 生産車種:シティ(セダン/ハッチバック)、HR-V
2023年時点で、年間約14.7万台以上のホンダ車をタイ国内で生産。
生産拠点はいずれも国境地帯から遠く、紛争の影響はほぼありません。
MAZDA(マツダ)
MAZDA(生産拠点)①:チョンブリー
- 設立開始:1995年11月
- 生産車種
- MAZDA2(2009年9月〜)
- MAZDA3(2011年2月〜)
- CX-3(2015年10月〜)
- CX-30(2019年11月〜)
2024年時点で年間約6万台規模の生産。
輸出比率が高く、港湾直結のため地政学リスクは限定的です。
MITSUBISHI(三菱自動車)
MITSUBISHI(生産拠点)①:チョンブリー
- 設立開始:1961年5月
- 生産車種
- トライトン
- パジェロスポーツ
- エクスパンダー
- エクスフォース
- ミラージュ
- アトラージュ
2024年は年間約23.5万台を生産し、その約90%が輸出向け。
三菱にとってタイは世界戦略の中核であり、今回の国境紛争による生産停止リスクは極めて低いといえます。
NISSAN(日産自動車)
NISSAN(生産拠点)①:サムットプラカーン(第一工場)
- 設立開始:1977年9月
- 生産車種:アルメーラ、キックス
NISSAN生産拠点②:サムットプラカーン(第二工場)
- 設立開始:2014年7月
- 生産車種:ナバラ、テラ
※2025年9月に第1工場の生産ラインを第2工場へ統合予定。
統合後も生産車種は変わらず、合理化による効率改善が目的であり、紛争対応ではありません。
TOYOTA(トヨタ自動車)
TOYOTA(生産拠点)①:サムットプラカーン
- 設立開始:1964年2月
- 生産車種:ハイラックス REVO
TOYOTA(生産拠点)②:チャチュンサオ(Gateway)
- 設立開始:1996年2月
- 生産車種
- カムリ
- カローラ
- カローラクロス
- ヤリス
- ヤリス ATIV
- ヤリスクロス
TOYOTA(生産拠点)③:チャチュンサオ(Ban Pho)
- 設立開始:2007年1月
- 生産車種:フォーチュナー、ハイラックス REVO、ハイラックス チャンプ
TOYOTA(生産拠点)④:サムットプラカーン(TAW)
- 設立開始:2012年12月
- 生産車種:ハイラックス系
2024年のタイ国内生産は約147万台規模。
タイはトヨタのIMV戦略(ハイラックス・フォーチュナー)の世界的中核拠点であり、国境紛争による影響はほぼ皆無です。
カンボジアにおける自動車生産の現状

TOYOTA(トヨタ)
TOYOTA(生産拠点):プノンペン経済特区
- 設立開始:2024年5月
- 生産車種:ハイラックス、フォーチュナー
- 生産方式:SKD(セミノックダウン)組立
カンボジアの自動車産業はまだ立ち上げ段階であり、部品の多くをタイから輸入し、国境物流に依存という構造です。そのため、国境検問の強化や通関遅延が起きた場合、納期遅延などの軽微な影響が出る可能性はありますが、タイ側の完成車生産に影響が波及する可能性は低いと考えられます。
国境紛争が自動車業界に与える現実的な影響まとめ
タイ国内の自動車生産:影響ほぼなし
カンボジアの組立工場:一部で遅延リスクあり
ASEAN全体の自動車サプライチェーン:維持
中古車・輸出市場:むしろタイ生産車の安定供給が評価されやすい
まとめ
今回のタイ・カンボジア国境紛争は、
全面戦争ではなく限定的な地域緊張にとどまっているため、現段階で自動車生産への大きな影響はありません。
ただし、
- 国境封鎖の長期化
- 政治的対立の激化といった事態に発展した場合、カンボジア側の自動車組立事業に限定的な影響が出る可能性はあります。
現時点では、タイは依然としてASEANで最も安定した自動車生産拠点であり、世界市場向け供給体制は揺らいでいないといえるでしょう。
タイ・カンボジア国境紛争の歴史【時系列】

① 植民地時代(1900年代初頭)
フランス統治下のカンボジアと、独立国だったタイの間で国境線が曖昧なまま地図が作成され、これが後の領有権争いの火種となりました。
② プレアヴィヒア寺院問題(1962年)
国際司法裁判所(ICJ)は寺院の主権をカンボジア側と判断しましたが、周辺地域の帰属は未解決のまま残りました。
③ 武力衝突の断続発生(2008〜2011年)
世界遺産登録をきっかけに、タイとカンボジアの国境付近で軍事衝突が発生し、緊張が一時的に高まりました。
④ ICJ最終判断と沈静化(2013年)
ICJが改めてカンボジアの主権を確認し、両国は軍の撤退と緊張緩和で合意しました。
⑤ 現在(2020年代)
国境問題は外交課題として残るものの、武力衝突は限定的で、全面戦争に発展する兆候は見られていません。
